補聴器を使い始めるタイミングとは?

なんとなくきこえが悪くなってきた、と感じ始めたとしても、実際に補聴器を使い始めるまでに数年かかった、ということはよくあります。
補聴器に対するイメージやわずらわしさ、価格など、自身にとって補聴器が本当に必要かどうか迷ってしまい、どうしても腰が重くなってしまうことが多いようです。
また、自分では十分きこえていると自覚しているのに、家族から補聴器の使用を勧められる、ということもあるかもしれません。

しかし、補聴器をもうひとつの耳のように使いこなせるようになった方からは、「もっと早く使えばよかった!」「補聴器がない生活なんて考えられない」という声が多いこともまた事実。

きこえづらさを自覚してもなかなか対処できない人、早めに補聴器を使い始めた人、どちらがよいかといえば、やはり「できるだけ早く」補聴器を使い始めるに越したことはない、ということです。
どのようなタイミングで補聴器を使い始めるのがよいのか、「できるだけ早く」という理由をあらためてご紹介していきます。

できるだけ早く補聴器を使いたい理由
①補聴器の効果が出やすい

補聴器を装用する医学的な基準は、40dB以上の中等度難聴というレベルになります。年齢でいうと、特に60歳代後半からは難聴を生じる可能性が高まります。

加齢が原因で起こる「加齢性難聴」は、耳の奥にある有毛細胞や聴神経がダメージを受けることによって起こります。残念ながら一度損傷した細胞は回復や再生ができないため、元のきこえに戻すことはできません。
また、年齢とともにさらに難聴が進行していく可能性もあります。

難聴の程度が軽い場合は、有毛細胞の損傷が少ないため、騒音下や多人数での会話の聞き取り能力の低下が比較的少ないため、補聴器を装用することにより、その効果を期待できます。しかし、難聴の程度が重くなると有毛細胞の損傷も激しくなり、きき取り能力自体が低下しているため、効果が小さくなってしまいます。

補聴器はきこえに合わせて細かく調整することができます。仮に難聴が進行したとしても、その都度聴力に合わせて調整できます。また、早い段階で補聴器に慣れることにより、自身にとって快適なきこえを助けてくれる補聴器の機能や性能とはどういうものなのか、より理解しやすくなります。

できるだけ早く補聴器を使いたい理由
②言葉のきき取り能力を保つ

加齢による難聴は数年以上かけてゆっくりと進行するため、きこえづらさの自覚ができにくいものでもあります。
それは、自身の耳と脳できき取り、理解できている音が、時間をかけてゆっくりと少なくなっていくからです。いわば、自分の周囲からさまざまな音が減っていくということ。そしてその変化はなだらかなため、なかなか自分自身で気づきにくいのです。

難聴の自覚がないまま放置してしまうと、耳から脳へと伝わる音の刺激が少なくなるため、音を言葉として理解する力(「語音明瞭度」といいます)が低下してしまう可能性があります。そこで、補聴器を装用し、さまざまな音を入れることにより、きき取り能力の低下を予防することができるようになります。
補聴器を装用せず、放置する期間が長くなるほど語音明瞭度は低下していくため、コミュニケーションを取りづらくなったり、周囲の危険察知能力が衰えたりと、心身ともに影響を及ぼすことがあります。
これが、難聴が認知症の危険因子のひとつといわれる所以であり、音の刺激を入れることが認知能力の低下を防ぐことにつながるとも言われています。


できるだけ早く補聴器を使いたい理由
③補聴器に慣れるまでの時間が短くなる

かけてすぐ見えるようになる眼鏡とは違い、補聴器は着けてすぐきこえる、というものではありません。補聴器から出る音に段階的に耳と脳を慣らしていく必要があるのです。

きこえづらくなった方が初めて補聴器を装着すると、今まできこえていなかった音が急にきこえるようになるため、「思っていたよりもうるさい」と感じてしまう人が少なくありません。音が少ない静かな世界から一気に音があふれる世界になるようなもので、これは仕方がないことです。
そこで、焦らずに段階を経て補聴器を使っていくことにより、耳と脳が補聴器の音に慣れ、違和感も減って快適にきこえるようになっていきます。

しかし、きこえづらいまま放置してしまうと、それだけ補聴器の音に慣れるまでにかかる時間が長くなってしまいます。難聴が過度に進んでしまう前に補聴器を使用することにより、スムーズに補聴器の音に慣れることができる場合が多いです。

また、補聴器の操作においても、早めに補聴器を装用を始めるメリットがあります。
補聴器の電源は電池式、または充電式となります。小さい電池を交換する作業は、手先が動かしづらくなってしまうと少々大変になるかもしれません。充電式補聴器を選ぶということもできますが、充電の作業が日々の習慣となるよう操作を覚える必要があります。
さらに、最近の補聴器はさまざまな機能が搭載され、非常に便利な半面、使いこなせるようになるには操作を覚える必要があります。

このように、補聴器の音や操作に慣れるという面でも、早いうちに補聴器を使い始めることによって、その時間を短くすることができます。


できるだけ早く補聴器を使いたい理由
④さまざまな音をきき続けることができる

日常には音があふれていますが、難聴が進むことにより、不要、不快な音だけでなく、自分にとって必要な音も当然きこえづらくなります。
生活音や環境音がきき取りづらくなると、生活の中で不安を感じることが増えることもあるでしょう。
きこえづらさや会話の難しさからコミュニケーションを取ることが苦手になり、社会生活に対して消極的になってしまう可能性もあります。

特に、おひとり暮らしの方は、会話をする機会が少ないということを理由に、「補聴器を着けても着けなくても変わらないので補聴器は必要ない」と言われます。
しかし、音というものは会話だけを指すわけではありません。日常にあふれる音がきこえない、ということは、それだけでさまざまな危険のリスクが高まるということでもあります。

早めに補聴器を使い始めることで、さまざまな音をきき続けることができます。きこえづらい耳と脳のまま放置してしまうと、たとえ補聴器を使い始めたとしても、再びたくさんの音をきき、理解できるようになるには時間がかかってしまいます。
また、コミュニケーションを楽しみ、安全に生活していくためにも、たくさんの音をきき取れることは非常に重要です。


補聴器を使い始めるタイミングとは?◆まとめ

自分にはまだ早い、必要ない、と、つい先延ばしにしがちな補聴器。ですが、きこえづらさを感じ始めたら、早めに検討し、使い始めることが重要であるとお分かりいただけたかと思います。
補聴器を使い始めるタイミングは、できるだけ早く。
なんとなくきこえが悪くなってきたと感じたり、家族や周囲の方に補聴器を勧められた場合には、一度耳鼻咽喉科を受診してみてください。

投稿者プロフィール

髙橋 義和
髙橋 義和
認定補聴器技能者。30年に渡る補聴器メーカー勤務の経験をもとに、『距離も気持ちも近くて安心、信頼できる補聴器専門店』
として、住吉大社のほど近く、粉浜商店街にある補聴器専門店として日々精進しております。趣味はクラシックギター、特技は書道。