ご家族に補聴器をすすめたいときは

会話が難しくなってきた、テレビの音が大きい、など、ご家族に加齢性難聴の症状がみられるようになると、「補聴器をつけてほしい」と考える方は多いのではないでしょうか。
また、車や電車など周囲の音はきこえているのか、きこえているふりをしているのではないか、と増えていく心配ごとに、補聴器をすすめたい気持ちが先走ってしまい、「プレゼントとして贈ればよいのでは」と思われる方も少なくないかもしれません。

しかし、そのような経緯で購入された補聴器をご本人が使いこなし、会話がしやすくなり、ご家族の心配ごともなくなるかというと、そう簡単にはいきません。
補聴器を使いこなすには、焦らずじっくりと慣れていくことが重要です。そのためには、まず、ご本人の「補聴器をつけてみよう、補聴器で生活を変えていこう」という前向きなお気持ちがなければ難しいのです。
しかし、ご本人に難聴の自覚がなかったり、補聴器の装用に乗り気でない場合、補聴器を使ってみよう、というお気持ちにはなかなかならず、無理にすすめることは逆効果になってしまいます。

そこで、きこえの現状と補聴器の必要性を理解してもらうためにどのようにすればよいのか、ご本人の気持ちに寄り添いながらご家族ができることについてご紹介します。
 


 

補聴器を使い始めるタイミングとは

 
聴力が低下すると、生活の変化によりご本人の自覚よりも前にご家族が気づく場合が多いです。そうなると、前述のように「補聴器をつけてほしい」となるのが自然なお気持ちといえます。
実際、ご家族のすすめがきっかけとなり補聴器を装用し始める方はたくさんおられます。しかし、いざ補聴器をつけ始めたもののうまくいかなかった、ひいては、補聴器なんてつけても意味がなかった、という残念な結果に終わってしまう方もおられるのが現実です。

補聴器をつけても意味がない、ということは決してありません。そうならないために、まず「今、本当に補聴器が必要かどうか」ということを前提に、補聴器を使い始めるタイミングを計ることが必要です。

 

まだ大丈夫 ~きこえにくさを自覚する

 
ご本人が「まだ補聴器は必要ない」とお考えの場合、聴力の低下を自覚されていないことがよくあります。特に、高音域から徐々にききとりにくくなる “加齢性難聴” の場合は少しずつ進行することが多いため、「自分だけがきこえていない音」や「少しずつきこえない音が増えていること」に気づくのは、とても難しいことです。

また、加齢性難聴でやっかいなことは、単に音がききづらくなる、というだけでなく、脳の老化と合わさって起こる、

(音はきこえているが)何を言っているのか理解できない

という状況になることです。
話の内容が理解できていなくとも、音として鳴っているのは分かる、ということを「きこえている」と判断してしまうのです。このことが、ご本人とご家族との「きこえの認識違い」の原因となっています。

日常の不便を確認する

生返事をしている、きこえているのかどうか分からない、などとご家族が感じてしまうのは、前述の「きこえの認識違い」によることが大きいです。
「きこえの認識違い」をすり合わせながら、ご自分のきこえの程度を客観的に認識してもらうために、日常生活で不便があるかどうかを振り返りながら、きこえのチェックをしてみることはとても有益です。

周囲の負担を伝える

ご家族が大きくはっきりした声で話すことで、ようやく会話できている場合があります。そうなるとなかなか不便を感じづらく、ご本人にきこえづらさの自覚がうまれにくいものです。
しかし、声量を上げる、何度も繰り返し説明する、ということが日々続くとなると、やはり大変です。だんだんと会話するのが億劫になることもあるでしょう。そのような周囲のご負担を少しずつ伝えてみましょう。
楽に会話ができるようになればもっとたくさん会話ができる、会話を楽しめるようになる、というご家族のお気持ちを知ってもらうことが、補聴器装用を考え始めるきっかけになるかもしれません。
 

恥ずかしい ~きこえの低下は誰にでも起こる

きこえづらさを自覚していても、「補聴器をつけるのはちょっと…」とためらう方もおられます。
見えづらいから使おう、となるメガネとは違い、きこえづらいから使おう、とすんなり進まないのは、補聴器はお年寄りのためのもの、というイメージがあることが原因のひとつです。本来はメガネと同じく、「きこえづらいから使う」ものである補聴器が、そうしたイメージを理由に「つけるのが恥ずかしい」もの、となってしまっているようです。

加齢性難聴の実態

加齢による聴力の低下は、進行が始まる40歳代のうちはあまり自覚することはないでしょう。しかし、難聴有病率(軽度難聴以上の難聴がある人の割合)は65歳以上で急増し、70歳代前半では男性の約5割、女性の約4割、80歳代では男性の約8割、女性の約7割に軽度難聴以上の難聴がみられるといわれています。

また、「加齢性難聴を有する高齢者の約7割は病院受診を希望していない」という発表もあり、加齢性難聴を有する方のきこえの問題に対する関心の低さを表しているといえます。

つまり、「加齢性難聴は誰にでも起こりうるものであり、恥ずかしいことではない」という認識のもと、ご本人はもちろん、ご家族の間でも普段からきこえの問題をより身近にとらえておくことが必要です。

補聴器は目立つ?

「補聴器が目立って恥ずかしい」というお気持ちが、補聴器をつけたくない理由になっている方もおられます。
ただ、近年の補聴器は目覚ましい勢いで進化しており、RIC型補聴器のような「目立たない補聴器」だけでなく、形やカラーリングにこだわった「おしゃれな補聴器」も数多く発売されるようになっています。
機能はもちろんのこと、目立たないタイプからカラフル、シック、スタイリッシュなタイプなど、選択肢が幅広く増えた今、以前のような画一的な補聴器のイメージから様変わりしている、ということをお話されてみてはいかがでしょうか。

また、ワイヤレスイヤホンの普及により、耳に何かを入れている人を見かけることが増え、補聴器だけが目立つ、違和感を感じる、ということも少なくなってきました。補聴器を装用するハードルは、従来よりもぐっと低くなってきているといえるでしょう。

「お年寄りのもの」→「若々しく過ごすためのもの」へ

加齢性難聴は、ゆっくりと進むために自覚しにくい、ということは既に述べましたが、単にきこえが低下していくだけでなく、認知症のリスクを高める、ということが知られるようになりました。
難聴により音の情報があまり入ってこなくなると、脳の活動が低下すること、他者とのコミュニケーションの機会が減少することが原因と考えられ、うつ病の発症要因になるとの指摘もあります。
「もう年だから補聴器をつけても無駄」とお考えになる方もおられるかもしれませんが、きこえの低下をそのまま放置することはそういったリスクにつながります。

少なくとも中等度以上の難聴があれば、日常生活で補聴器が役立つ可能性が十分あります。もし基準を満たしていなくても、生活スタイルによっては補聴器を使うことでご家族や周囲の方とのコミュニケーションをとりやすくなることも考えられます。
また、最近ではスマートフォンと補聴器を接続し、通話音声や音楽を補聴器に直接飛ばす、など便利な機能を持った補聴器も増えています。

補聴器は「お年寄りのもの」ではなく、「若々しく過ごすためのもの」として、暮らしをより快適に楽しむツールに変化しています。


 

わずらわしい ~補聴器は驚くほど進化しています

 
古い世代の補聴器は手動で操作することがほとんどでした。小さなつまみやボタンを押したり、という操作は、手先を動かしにくくなる年齢の方にとって、なかなかに大変であったことであったことは確かです。
また、補聴器自体が大きかったため、耳に乗せる、というだけでわずらわしさを生んでいた面もあります。

しかしながら、補聴器の技術革新が進み、現在では小さなマイクロチップが補聴器本体に内蔵されているため、周囲の環境に合わせて様々な機能を自動的に調節しています。また、初めて補聴器を使う方にもよりやさしく補聴器に慣れていけるよう設計され、より自然な聞こえを目指した音が届けられます。したがって、補聴器装用で感じる疲れを軽減させることにもつながっています。
 

お金がかかる ~公的制度、各種保証が利用できることも

 
気楽に購入できる集音器とは異なり、補聴器の平均価格は1台当たり15万円程度といわれており、基本的に両耳に装用するため、倍の金額がかかることになります。
また、高価な補聴器を紛失したり、破損してしまわないか、という不安もあるようです。

補聴器の公的助成、控除

技術の進歩により、現在、補聴器は幅広い価格帯からご希望の機能や目的に合わせてお選びいただくことができるようになりました。
また、きこえの程度によっては、国からの公的助成 があり、補聴器が支給されます。お住まいの市区町村によっては、独自の助成制度を実施しているところもありますので、一度調べてみるのもよいでしょう。

また、補聴器は医療費控除の対象となっています。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定の補聴器相談医を受診し、補聴器が必要と判断された場合には、一定の医療費控除を受けることができます。

公的助成や控除について、詳しくは下記のコラムをご参照ください。

補聴器を破損、紛失した場合

購入した補聴器にはメーカーによる保証期間が設けられています。メーカーや器種ごとに違いはありますが、基本的に2年程度であることが多く、期間内に発生する自然故障の場合、無償で修理が行われます。

また、購入時に有償オプションとして、紛失に対する保証をつけることができる場合もあります。マスクの装着が日常化し、紛失のリスクが高まったことにより、こういったオプションを付ける方も増えています。


 

ご家族に補聴器をすすめたいときは◆まとめ

 
補聴器をご家族にすすめる前に、まずはご本人のお気持ちやきこえづらさの自覚の有無を確認していただくことからスタートすることの大切さをお分かりいただけたかと思います。

コミュニケーションが一方通行では成立しない以上、「きこえ」の問題はご本人だけでなくご家族や周囲の方々にも関わる問題です。しかし、「きこえ」自体はあくまでご本人のものであり、補聴器を実際に装用するのはご本人だけです。

きこえや補聴器について、ご家族でじっくり話し合ってみてはいかがでしょうか。そして、ご来店される際には、ぜひご家族でお越し下さい。

投稿者プロフィール

髙橋 義和
髙橋 義和
認定補聴器技能者。30年に渡る補聴器メーカー勤務の経験をもとに、『距離も気持ちも近くて安心、信頼できる補聴器専門店』
として、住吉大社のほど近く、粉浜商店街にある補聴器専門店として日々精進しております。趣味はギター、特技は書道。