補聴器とは?

テレビや新聞など、様々な媒体で補聴器が紹介されることが増えた昨今。
眼鏡店や量販店で取り扱われていたり、街中で補聴器専門店を見かけることもあります。補聴器を装用されている方の話を聞かれることもあるでしょう。
しかし、実際のところ補聴器について意外と知らないことが多いのではないでしょうか。
補聴器装用を考え始める前に、補聴器とはどんなものなのか、補聴器にまつわる疑問やよく聞く話からご説明していきます。

補聴器とはどんなもの?

〇補聴器のはたらき

補聴器のはたらきとは、簡単に言うと、「マイクロホンから入ってきた音をきこえに合わせた音に加工し、ききやすい音にしてイヤホンから出力し、きこえを補う」ということです。
この「きこえに合わせた音に加工し、ききやすい音にして」という部分が補聴器にとって最も重要となります。
それぞれのきこえに合わせて補聴器を調整すること(フィッティング)ができなければ、度の合わないレンズの眼鏡をかけるのと同じこととなり、望ましい快適なきこえとはほど遠いものとなってしまいます。

〇補聴器と眼鏡の違い

視力をおぎなう眼鏡はかけてすぐ見えやすくなるため、同様に、補聴器もつけるとすぐきこえが改善すると思われがちです。
しかし、補聴器はその特性やはたらき自体、眼鏡とは全く異なるものです。

まず、補聴器が改善する「きこえ」というものは、耳だけでなく耳と脳が連携して成り立つ感覚である以上、つけてすぐきこえやすい、ということは残念ながらありません。
補聴器装用では、段階を経て徐々に耳も脳も補聴器の音に慣らしていくことが大切となります。

また、製品性能上の限界はあるものの、補聴器はきこえに合わせて何度でも調整ができる器械です。
職場や外出先、会話をする場所や人、生活音や機械音など、暮らしの中でどのような音をききたいのか、どのような音を抑えたいのかについて、実際に補聴器を装用してみなければ分からないことがたくさんあります。そのような場合にも微調整し、対応していく必要があります。補聴器においてフィッティングが必要不可欠と言われるのはその所以です。

対して眼鏡は購入後に販売店へ微調整に行くことはめったにありません。度数が合わなくなったり、見え方が変化した場合にレンズを交換する必要があります。

〇補聴器と集音器の違い

補聴器と見た目がよく似ている「集音器」や「助聴器」。
どちらもきこえをおぎなう器械ではありますが、補聴器はきこえが難しくなった方や難聴の方を前提に開発・製造された医療機器です。集音器や助聴器は医療機器ではなく、開発や販売に制約がないため、基本的には音を増幅する機能を中心に広く一般向けに販売されている製品となります。

また、集音器や助聴器は既製品のため事前にきこえを測定することもフィッティングすることもありません。購入前の段階ですでに補聴器とは異なっているという面からも、違いがあることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

〇きこえと補聴器

補聴器を装用している方から、「補聴器をつけるとうるさくて我慢できなかった」という話を聞かれたことはありませんか。
この話の裏には、きこえには耳と脳が密接に関係している、ということが忘れられている可能性があります。

耳の問題なのになぜ脳が?と思われるかもしれません。
確かに音は耳でききますが、その音が電気信号として脳に伝わり、脳は「音」を「情報」として処理しています。音をきき分け、その音が持つ意味を理解するのは脳なのです。

きこえが難しい状態が続くと、脳は音の刺激が少ない状態に慣れてしまいます。長年その状況で生活している場合、以前は自然と耳にしていた生活音や環境音でさえも脳は忘れてしまっている状態になっています。
このような刺激の少ない状態に慣れた脳に、補聴器からいきなり「きこえに必要な音」を入れたとしても、その音は「騒音」「雑音」と判断され、拒絶されることになります。
結果、それが不快感となり、「補聴器をつけるとうるさくて我慢できなかった」という原因となります。

つまり、脳が音の刺激を拒絶せず、補聴器から「きこえに必要な音」をきき続けられるようにするために、耳も脳も段階を経ながら慣らしていくことが必要不可欠となります。補聴器に慣れる、ということは、脳が再びきこえを学習している状態なのです。

〇脳と補聴器

脳が補聴器に慣れていくために、まず最初は、補聴器からきき取りに必要な音量の7~8割程度の音量を出します。1日に2~3時間程度の装用から始め、少しずつ1日の装用時間を伸ばしていくと、ご自身でも
「あまりきこえなくなってきた」「音量がものたりない」
という状況になってきます。
これは、脳が音の刺激を拒絶せず情報として処理し始めたしるしであり、次の段階へと進むサインです。

定期的な調整(フィッティング)で徐々に音量を上げながら、制御すべき音、ききたい音などの調節を行い、装用の場を家の中だけでなく家の外へと広げて装用時間を増やしていきます。
十分な音量できき取りを続けられるようになるまでの目安は、個人差はありますが、およそ3ヵ月程度です。きこえの程度やきこえが難しくなってからの時間の長さにもよるため、目安にしばられず、ご自身のペースで慣れていくことが大切です。

〇耳と補聴器

一方、耳自体が補聴器に慣れていくことも必要となります。
補聴器は大きく分けて、
・耳の中に入れて使う耳あなタイプ
・耳にかけて使う耳かけタイプ(耳の中には耳栓が入る)
の2種類の形状があります。

どちらのタイプも耳の中に「もの」が入る状態になるため、今まで感じなかった異物感や閉塞感を感じる場合があります。
また、耳栓をしているときに感じるような、自分の声にこもりや響きのような違和感を感じることもあります。
詰まり感や響き、圧迫感は、耳栓の変更、イヤモールド(オーダーメイドの耳栓)や耳あな型補聴器のシェル(耳の中におさまる部分)の加工で軽減できる場合もありますが、完全に気にならなくなるまでには時間が必要です。
補聴器をつける、ということは、耳に何かが入っている状態、その状態での自分の声のきこえ方にも慣れていくことでもあります。

〇補聴器の種類

初めての補聴器装用、となると、できるだけ目立たないものにしたい、と思われる方が多いのではないでしょうか。
先にご説明したように、補聴器には「耳かけタイプ」「耳あなタイプ」の2種類があり、耳かけ補聴器の中でもさらに小さい「RICタイプ」というものがあります。

補聴器としての機能はもちろん、眼鏡やマスクとの併用、という時勢の流れもあり、小さく軽く目立ちにくいRICタイプは、補聴器装用が初めての方だけでなく、幅広くおすすめできる補聴器です。当店でも、補聴器ご購入のお客様のおよそ8割がRICタイプをお選びいただいています。

とはいえ、補聴器の種類ごとに特徴や機能が異なるため、まずはご自身のきこえの状態をもとに、どの補聴器が望ましいかを考慮して選択する必要があります。

補聴器の種類と選び方について、詳しいご説明はこちら「補聴器について」のページをご覧ください。

〇補聴器は常時装用するもの

朝から晩まで補聴器をつけると逆にきこえによくないのではないか、というご心配の声をいただくことがあります。
結果からご説明すると、「補聴器は朝から晩まで毎日しっかりとつけたほうがよい」、ということになります。
※聴力レベルによっては必要な場合だけ装用することもあります

例えば、友人との会食のときだけ、仕事中だけ、テレビを見るときだけ、というように、きき取りたい場面だけで補聴器を装用することにしてしまうと、装用時間はどうしても短くなります。そうなると、脳が音にしっかりと慣れることができません。脳が変化していくためには、補聴器の装用時間が非常に重要になります。

耳は休むことなくはたらいています。耳を塞がない限り、耳には朝から晩まで絶え間なく音が入ってきて、脳へと刺激を送っています。補聴器はそんな耳と同じく、もう一つの耳となる器械です。適切にフィッティングされた補聴器を起床から就寝まで使うことで脳が刺激に慣れ、次第に「補聴器をつけていることを忘れる」感覚へと変化していきます。

しかし、頭が重い、痛いなど体につらさが出た場合は補聴器をはずし、休息することも必要です。症状が改善したら再び補聴器を装用するようにし、無理なく装用時間を伸ばしていきましょう。

〇補聴器の動力源

補聴器は小さくても器械ですので、電力をもとに動いています。
従来、専用の空気電池による「電池式」が主流でしたが、最近は電池交換の手間がない「充電式」のものも増えてきました。
手先を動かしにくい方に取って、電池交換の作業がない充電式は非常に楽な反面、充電を忘れてしまう、ということも起こります。
起床から就寝まで補聴器を装用する日常、となると、電源の確保は必須です。電池式、充電式のどちらにもメリット・デメリットがありますので、どちらがよいと言い切れるものではありません。ご自身の状況や周囲のサポートの有無、生活環境をもとに、継続的に使用可能であるものを選ばれるとよいでしょう。
ちなみに、電池が切れそうになった場合には、アラーム音や日本語のアナウンスで知らせてくれる補聴器がほとんどですので、ご安心ください。

<電池式>

電池交換により、すぐに使用可能

→充電式の場合、ほとんどの製品でフル充電には1~2時間程度必要になります。
※補聴器装用時間により異なります
※30分程度の充電で数時間程度は使用可

電気の供給がない場合でも使える

→万が一の災害で電気の供給が止まってしまった場合でも、お手元に電池をストックしておくことで使用が可能となります。最近では補聴器専門店だけでなく、家電量販店やスーパー等でも補聴器用電池の取り扱いが増え、比較的入手しやすくなっています。

<充電式>

電池の交換が不要

→補聴器を使用しないときに専用の充電器に入れていただくだけで完了します。就寝前の習慣とすることで充電忘れを防止しましょう。
また、充電と同時に、乾燥や除菌も行うことができる充電器もあります。

汗や湿気による故障のリスクが低い

→電池交換用のフタ(バッテリードア)の開閉が不要となるため、そこから汗や湿気、皮脂汚れなどが侵入して起こる故障の可能性が低くなります。
※最近の補聴器は撥水加工が施されているため、以前と比べると汗による故障の割合は減っています

状況により充電器を携帯する必要がある

→多くの充電式の場合、フル充電で約20時間前後の連続運転が可能ですが、旅行のように数日外泊する場合には充電器を携帯する必要があり、荷物が増えるということがあります。

〇補聴器の価格

補聴器装用を考え始めた時、まず気になるのは価格ではないでしょうか。
集音器や助聴器に比べると、補聴器は確かに高額です。ただ、先にご説明したとおり、補聴器と集音器・助聴器は異なるものであり、価格に差がつくことは明らかであることがお分かりいただけるかと思います。

補聴器の価格は形状や機能により様々で、一般的に片耳10万円前後から販売されています。「昔より高くなった」と言われることがありますが、物価やコストの上昇といった事由をのぞくと、実は補聴器自体の価格はそれほど変わってはいません。
高くなった、と思われる理由として、1996年にフルデジタル補聴器が発売されて以降、およそ30年間で驚くほどの進化を遂げたことにあります。つまり、現在の補聴器は以前の補聴器に比べて格段に小さく、高機能・高品質になっている、ということであり、技術の普及により価格が下がった面さえあります。よって、様々な機能を持った補聴器を幅広い価格帯から選択することが可能になっているのです。

基本的に高価な補聴器は機能や性能がより充実していますが、価格の高低が装用する方それぞれのきこえやすさに直結するわけではありません。
ご予算でカバーしきれない性能については、ご自身の補聴器の使いこなし方や周囲の方々のご協力でカバーしていくことが重要になります。
ご自身のきこえにとって必要な機能や性能を満たすことができる補聴器を選び、購入することが大切です。

●補聴器(片耳)のおよその価格帯

・~10万円
多くの機能を必要とせず、安価な補聴器をご希望の方におすすめ。
主に家の中など静かな場所で会話をされるなら十分な性能を備えています。
調整項目が少ないため、試聴して雑音が気にならないかどうか、確認が必要です。
・10万円~30万円
少し騒がしい場所やお仕事での使用も含め、様々な場面でのきこえを改善したい方にぴったりです。
性能とお求めやすさのバランスが取れた価格帯となります。
・30万円~55万円
高度な先端技術を投入して開発された高性能クラスの製品です。最近では『AI』が標準装備されている補聴器が発売されており、音質がとても良く聞き心地も抜群で、最高水準の機能が搭載されています。

〇補聴器の公的助成と控除について

<公的助成について>

現在、国民健康保険や社会保険、民間の生命保険では補聴器の支給制度はなく、補聴器の購入は全額自己負担が基本となります。ただし、障がい者総合支援法による障がい者手帳の保持者には、難聴の程度に応じて補聴器の支給を受けられる制度があります。つまり、難聴の状態が法律の規定する一定の条件に合致すれば、補聴器を購入するための費用が補助してもらえるということです。
ただし、公的助成を受けるためには必要な申請手続きがあります。補聴器購入の補助制度はお住まいの市町村により異なります。
また、個々の自治体が独自に補聴器の購入に対する補助を行っている場合もあります。

例)
高齢者を助成対象にしている自治体
子どもを対象としている自治体
年齢を問わず助成している自治体

助成の内容も自治体によって異なっており、新たに助成制度を開始する自治体も増えてきているようです。詳しくはお住まいの自治体の福祉担当窓口にお問い合わせください。

<控除について>

また、平成30年から「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」を活用することで、補聴器が医療費控除の対象となりました。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定の補聴器相談医を受診して、補聴器が必要と判断された場合は一定の医療費控除を受けることができます。

公的助成、控除についてはこちら「補聴器の公的助成と控除について」のページをご覧ください。

補聴器について◆おわりに

補聴器にまつわる疑問やよく聞く話をもとに、補聴器とはどんなものかについてご説明してきました。
初めての補聴器装用、まだまだ分からないことやご不安もあるかと存じます。
どうぞお気軽に当店へお問い合わせください。お待ちしております。

投稿者プロフィール

髙橋 義和
髙橋 義和
認定補聴器技能者。30年に渡る補聴器メーカー勤務の経験をもとに、『距離も気持ちも近くて安心、信頼できる補聴器専門店』
として、住吉大社のほど近く、粉浜商店街にある補聴器専門店として日々精進しております。趣味はクラシックギター、特技は書道。